森林作業道開設作業の安全手順および注意事項

 森林作業道は木材搬出のためだけでなく、施業から管理全般に係る森林経営のインフラストラクチャーとして重要な役割をもつ。そのため森林作業道は簡易な規格でありながら降雨や自然災害に対して堅固で壊れにくく、また被害を受けても容易に補修ができる構造であることが望ましい。
 マルカ林業では森林作業道の詳細な作設方法に関する下記社内マニュアルを策定し、当マニュアルに則って作業を行うこととする。

【マルカ林業森林作業道開設マニュアル】

 森林作業道の施工については、原則として林野庁森林作業道作設指針および和歌山県森林作業道作設指針に沿って行うものとする。ただし自力開設(県造林補助事業に依らない)事業における作業道開設においてはその限りではない。

 森林作業道の規格は幅員2.5m~3m未満とするが、作業の効率と安全性を考慮して幅員3m未満を基本とし、山の傾斜・作業道周囲の林況、伐採搬出作業の内容と方法などを考慮して部分的に拡幅や減幅を行うこととする。

 土工は半切り半盛りを基本として、掘削・土砂の移動は可能な限り抑え、林外への土砂の持ち出し処理は想定しないものとする。

 個々の作業については、労働安全衛生法・規則、および当マニュアルに則り安全に留意して行うこと。

作業手順
1.伐開
伐倒
  • 支障木の伐開幅は必要最低限とし、また計画線形の変更に柔軟に対応できるよう先行伐開は行わない。伐倒は土工作業と連携してバックホウのアームが届く範囲内で順次行う。重機を用いて伐倒木の処理を速やかに行うことで作業の効率化を図る。
  • 伐倒は原則として斜面下方に向かって行う。伐倒した木は作業の進行を妨げない限りそのまま林内に押し込んでおき、作業道の施工完了後に集造材を行うこととする。
  • 伐倒方向と伐倒木の処理については後の集造材作業が行いやすいように配慮すること。
  • 伐倒手順については「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」に沿って安全に留意して行うこと。
伐採木の処理・活用
  • 支障木として伐倒した木のうち、用材として出荷できないものは丸太構造物・路盤工・路面排水溝などの工事資材として可能な限り現地で利用する。
伐根の処理・活用
  • 土工範囲内にある伐根は原則として全て掘り起こし取り除く。特に路盤下に伐根を残すと、車輌の繰り返し走行によって路面に露出し足回りを傷めたりスリップの原因になるので、必ず取り除き処理すること。
  • 掘り起こした伐根は盛土法尻に据え置くか、表土ブロック積みと併用して土羽から路肩へかけて積み置くこととする。いずれの場合も確実に床固めと転圧を行い十分に安定させること。なお盛土路体内への埋設は原則として行わない。
2.土工
  • 盛土の施工は表土ブロック積み工法を基本とするが、急傾斜地や谷越部など盛土が高くなり幅員が確保できない箇所においては丸太組などの簡易構造物により盛土の補強を行う。
  • 土工は基本的に半切り半盛りとし、可能な限り切土量と盛土量を均衡させるように地形に沿って開設する。目先の切り盛りだけでなく、前後10m区間程度での土量の均衡を図り、前後左右に土を移動させる。
表土の剥ぎ取りと利用
  • 林床を覆う有機物層は掘削前に全て剥ぎ取る。剥ぎ取った表土は路体に使用すると支持力が不足するため、路面、路盤直下や盛土内部には使用しない。
  • 表土には埋土種子が多く含まれるので、剥ぎ取った表土は土羽や路肩の植生回復のために利用する。表土ブロック工においては、丁寧にすくい取った表土をそのまま路肩に置いて転圧し、これを繰り返して積み上げる。
切土
  • 切土法面の高さは、直切でおおむね1.5m以内とする。それを超える場合は1:0.6の勾配を基準とし、最大でも3m以内とする。高い切土区間が連続することのないよう留意すること。
  • 切土法面は特に形成を行わないが、車輌の通行・作業の支障となる根や浮き石は取り除く。
盛土
  • 盛土に先立ってまず盛土基礎部分(法尻部分)の表土を剥ぎ取ったうえで段切りをして床固めを確実に行う。地山と盛土の間にすべり面が生じないように、地山を段切りしながらいったんほぐして転圧をこまめに繰り返し、地山と盛土を一体化させる。
  • 不等沈下を防ぐため、切土部分においても路盤から深さ30cm程度まではいったんほぐし、盛土部分と同様に転圧を繰り返して締め固める。
  • 転圧にあたっては多量の土を一度に踏み固めるのではなく、おおむね30cm程度の層ごとに、土を置いてはバケット転圧を何度も繰り返し、路盤が水平な高さになったらクローラで繰り返し踏み固めて転圧する。
天地返し
  • 表層の土質が軟弱な場合は、地山を掘り込んで礫を含む芯土を表面に取り出し、替わって表層の土を深く埋め込む。
  • 平坦地や丘陵地では表土が表面に残り路盤が軟弱になりがちなので、確実に天地返しを行うこと。
曲線部
  • 車輌が安全に走行できるように、内輪差や旋回時の膨らみを考慮して曲線部の拡幅をおこなう。
スイッチバック
  • スイッチバックはクローラダンプの通行を前提として施工する。
  • 折り返し部分では必ず水平な踊り場形状とする。切り盛りがやや大きくなるので、法頭・法尻の位置を慎重に検討し、折り返し部の前後で急勾配にならないよう土量配分に注意すること。
  • 折り返し部では、突っ込み長を十分に(可能なら2車長程度)とり、無理な方位転換がないようにする。ここは車輌の駐車箇所・離合箇所としての利用も想定される。
退避箇所
  • おおむね200mに1カ所程度待避所を設け、車輌の転回・離合・駐車、資材・原木の仮置きなどに利用する。また作業ポイントとしても利用可能であるので、地形や地盤の安定した箇所では可能な限り広く作設する。
3.表土ブロック積み工
  • 表土ブロック積み工法では、作業するバックホウの足下から前方にバケットが届く範囲内、おおむね2~3m区間毎に開設を進める。手順は以下の通り。

1.     法尻となる部分の表土を剥ぎ取って地山をほぐし、50cm幅程度で段を切って平らに均し、床固めを十分に行う。

2.     床固め箇所の上に階段を切るように表土をすくい取り、床固めをした箇所に置いて上からバケットで転圧する。

3.     芯土をすくい取ってそのうえに置き、さらに敷き均して転圧する。

4.     その上を、さらに階段を切るように表土をすくい取り、路肩に置いて転圧する。

5.     以上を繰り返して、路盤が計画高に至るまで表土と芯土を交互に積み上げる。

6.     伐根は、掘り上げたらバケットで整形し、平らに転圧した路肩に据え置く。隙間ができないように土をかぶせて十分に転圧し安定させる。この際根の長い側を山側に向けて据えると路肩の安定に有効。

※表土ブロックはあくまで盛土法面の保護と安定化が目的であるので、車輌が通過して負荷の掛かる路盤下には表土を入れないようにする。

※水分を多く含むなど、表層に安定した芯土がない場合は、切土側を深く掘り込んで乾いた土や礫を取り出し、表層の土と入れ替える。

※地山と盛土の接合部分は安定した芯土を入れてこまめに転圧をし、すべり面が生じないようにする。

4.丸太組工
  • 施工は原則として開設作業と同時に行う。
  • 丸太組に用いる丸太の長さは、桁に4mまたは3m、横木には80cmに切ったものを基本として用いる。径は12cm~18cm程度のものを、現場の状況に応じて適宜選定して使用する。

1.法尻となる部分の表土を剥ぎ取り掘削して平らに均し、桁を敷くための地盤を定める。

2.桁となる丸太を置いて安定させる。

3.おおむね1m間隔で、横木を置くための溝を掘る。

4.横木を置いたら桁まで貫く穴を開け、鉄筋を差して固定する

5.丸太の裏に土を籠めて転圧し平らに均す

6.桁をおく

7.以上の繰り返し

5.路盤工
  • 軟弱地や大盛土区間など、路体の支持力が十分に確保できない箇所においては路盤工を施し、路盤の補強を行う。また急な曲線区間では履帯の走行に伴って路面の土が外側へ押し出されるので、路面の保護のために路盤工を施工すること。
丸太敷き
  • 路盤の軟弱な箇所やカーブにおいて丸太敷きを行う
  • 路盤の状況に応じ0~1m間隔で丸太を横向きにならべて埋め込む。
  • 間隔を開けて並べる場合、丸太のと丸太の間で転圧が不十分となり、繰り返し走行に伴って丸太が路面に露出しがちなので、施工の際は十分に土をかぶせながら繰り返し転圧を行うこと。
地盤改良材
  • 特に軟弱地では地盤改良材を使用して路盤を固める。
  • 作業道を仮施工した後、表面から50cm程度の深さまで路盤をほぐし、地盤改良材を撒いて十分に撹拌して転圧をする。
  • 改良材1トンあたりの施工面積は40㎡以内を目安とする。(土砂㎥あたり50kg以上使用)
6.排水施設
横断溝
  • 横断溝は道の中心線に対して50~60度の傾斜角をもって施工する。
  • 横断溝での排水は土羽に水を落とす部分で浸食がおこり崩壊しやすいため、施工箇所は盛土が低くて強固な箇所を選ぶ。
  • 水叩に伐根や丸太を設置したり石を敷き込むなどして浸食を防ぐ。
  • 特に流下量の多い箇所では、路肩に沈砂池を設け水流を弱めることも有効。
  • 車輌の通行に配慮し、溝幅はできるだけ広くとって緩やかに掘り下げる。
  • 急傾斜地では溝幅を取りづらくまた車輌の轍でつぶれやすいので、大きく深めに掘ったうえで丸太を入れるなどして補強する。
片勾配
  • 平坦地や緩傾斜地では波形路線と片勾配(カント)で排水を行う。
  • 縦断勾配のない平坦地では路面に片勾配をつけ山側に水がたまらないように、路面全体で谷側へ排水する。
  • 緩傾斜地では片勾配をつけるとともに路線を波形にして、凸部で水流を止めながら凹部全体で広く谷側に水を落とすようにする。